生成AIに業務を任せるとき、評価すべきなのは回答文の出来栄えだけではありません。業務に合わせた道具を作れるか。その道具を使って成果物まで完成できるか。外部への送信や公開を、人が確認できる境界に置けるか。さらに、その手順を次回も使える資産として残せるか。株式会社エヌネットワークス(以下、Nnet)は、社内リリース前のMOPRO AI OSで、この一連の流れを実装・運用検証しました。
代表例として検証したのが「トレンド動画制作オペレーター」です。AIエージェントが専用の業務アプリ(Gadget)を構築し、そのアプリ上で台本、字幕、絵コンテ、素材権利を整理。ローカルの動画レンダラーを呼び出して、ナレーション付きMP4を生成し、進捗と品質確認まで行いました。本稿では製品紹介ではなく、「AIに業務アプリを作らせ、そのアプリで実務を終える」ための設計と、そこで見えた運用上の論点を紹介します。
検証範囲:MOPRO AI OSは社内リリース前です。今回、実運用の一連の流れを確認した代表例は「トレンド動画制作オペレーター」であり、カタログの25種類すべてが完成済み・検証済みという意味ではありません。外部送信・更新・公開には人の確認を置き、動画は自動公開していません。
出発点はCloudflare OS、検証対象はNnetのフォーク
MOPRO AI OSは、Cloudflareがオープンソースで公開するCloudflare OSをベースにしたフォークです。Cloudflare OSが備える、AIエージェントによるGadget構築、Gadgetごとのサンドボックス、外部サービスへの権限を仲介するGatekeeper、アプリのひな型となるBlueprintといった考え方を土台にしています。
Nnetはその上に、業務利用を試すための日本語エージェントカタログ、利用ロール、Context & Skills、既存業務システムとの接続、ローカル動画レンダラーなどを追加しました。したがって、基盤の設計思想とNnet独自拡張は区別して捉える必要があります。今回の記事で実装・運用検証したのは、このフォークにNnetの拡張を組み合わせたローカル環境です。
25種類は「完成品」ではなく実装スターター
カタログには、経営、営業、マーケティング、カスタマーサポート、コマース、プロジェクト管理、エンジニアリング/IT、人事/オペレーションの8領域に、25種類の日本語エージェント商品を用意しています。ただし、これはボタンを押せば完成済みソフトが即座に動くマーケットプレイスではありません。
各項目が持つのは、目的、進め方、必要な接続先、人が確認すべき操作などをまとめた「実装契約」です。「このエージェントを構築」を選ぶと、その契約を引き継いだ専用ワークスペースが始まり、AIエージェントが実際のGadgetを作成・テストします。カタログを、業務要件の抜けを減らし、初期設計を再利用するためのスターターとして扱っています。
AIがアプリを作り、そのアプリが動画を作る
「トレンド動画制作オペレーター」では、まず制作業務を一つのGadgetとして実装しました。テーマを入力すると、台本・字幕・絵コンテ・素材権利の整理、制作進捗、品質チェック、最終プレビューを一つの画面で追える構成です。
- 動画テーマと制作条件を入力する
- AIエージェントが台本、字幕、絵コンテを作成する
- 使用素材と権利情報を整理する
- ローカルナレーションと映像をレンダリングする
- 進捗、品質、素材権利、最終プレビューを人が確認する
- 承認後のMP4を成果物として受け取る
レンダラーは縦型動画向けのH.264/AAC MP4、ローカルナレーション、字幕カード、プロジェクト情報、権利情報を生成します。レンダリング自体も承認対象です。今回、この工程から実際のMP4が出力され、さらに実画面を使った約60秒の製品デモ動画の制作まで完了しました。
ここで重要なのは、チャットが動画の説明文を返しただけではない点です。AIが業務専用の操作面と状態管理を持つアプリを作り、そのアプリが制作工程を進め、再生可能な成果物を出しました。検証単位を「回答」から「業務の完了」へ移したことが、この取り組みの中心です。
人の承認を、作業の最後だけに置かない
AIエージェントやGadgetは、初期状態で外部サービスへのアクセス権を持ちません。必要な接続先を明示的に導入し、Gadgetが継続して利用するものは個別にバインドします。外部への書き込みなど副作用のある操作は、Gatekeeperを通じて人が承認または拒否できる設計です。
動画制作でも、素材権利、制作プラン、レンダリング、最終プレビューを確認対象にしました。生成した動画を外部へ自動公開する機能は持たせていません。社内告知についても、人が内容と添付物を確認したうえで行う別工程です。
これは「安全を保証する」という意味ではありません。サンドボックス、権限の限定、操作ログ、承認境界を組み合わせて、想定外の操作や情報流出のリスクを下げ、後から確認しやすくする設計です。実際の導入では、接続先、扱うデータ、利用者ロール、承認者、障害時の停止方法を業務ごとに検証する必要があります。
ContextとSkillで、個人の工夫を業務資産へ
業務アプリだけを残しても、判断の前提や作り方が散在すれば、次回はまた一から説明することになります。MOPRO AI OSでは、エージェントが参照する業務情報をContext、実行手順をSkillとして管理します。
ContextはMarkdownに限定せず、プレーンテキストやJSONなどのテキスト指向データを扱えます。Skillは SKILL.md と任意の補助ファイルで構成されます。今回の動画制作で得た制作条件、確認項目、権利整理、レンダリング手順をこの形に寄せることで、個人のプロンプトではなく、更新・レビュー・再利用できる業務資産にしていけます。
実装して見えた三つの論点
- 業務スターターと完成品を混同しない:カタログが整っていても、接続先や例外処理を含むGadgetの実装とテストは業務ごとに必要です。
- 承認対象を具体化する:「重要な操作は確認する」だけでなく、素材権利、レンダリング、外部送信、更新、公開のどこで誰が確認するかを決める必要があります。
- 成果物と運用知識を分けて残す:MP4だけでなく、台本、字幕、権利情報、品質チェック、Context、Skillを残すことで、次回の制作を改善できます。
一方、今回の確認はローカル環境での代表例に限られます。25種類のスターターすべての実装完了、組織全体での権限設計、本番規模での可用性や性能、あらゆる外部接続の妥当性を確認したものではありません。社内リリースに向けては、利用ロール、監査、バックアップ、障害対応、接続先ごとのデータ取り扱いを継続して確認します。
AI活用を「会話」から「運用」へ進める
今回の検証で確認できたのは、AIエージェントが業務アプリを実装し、そのアプリで実際の制作工程を進め、MP4という成果物まで到達できることです。同時に、アプリが動くことと、組織で運用できることは別だと分かりました。権限、承認、記録、再利用まで設計して、初めて業務へ組み込む準備が整います。
Nnetは、AIにすべてを自動化させるのではなく、人が判断すべき境界を残しながら、繰り返し作業を業務アプリと運用資産へ変える方法を検証しています。MOPRO AI OSは社内リリース前ですが、今回の実装・運用検証をもとに、適用範囲と承認設計をさらに具体化していきます。
本稿は社内リリース前の技術検証を紹介するものであり、サービスの提供開始や提供範囲を告知するものではありません。
AIエージェントを業務へ組み込む設計は、業務フローと承認境界の棚卸しから。
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